頂点に立ったボーイズグループの偶然と必然

僕はボーイズグループファンなのだが(特定の推しはおらずボーイズグループ全般を浅く広く聴く)、BTSの“Permission to Dance”を聴いた時に運命的なものを感じた。
The Jackson 5、Backstreet Boys、One Direction…時代の頂点に立ち、男性像を塗り替えてきたボーイズグループの偶然と必然について。
富岡すばる 2021.08.15
誰でも

僕はボーイズグループのファンである。と言っても、どこか特定のグループのファンというわけではなく、「ボーイズグループ」そのもののファンだ。

例えば日本で活躍するボーイズグループだと、ジャニーズ系やEXILE TRIBEはもちろん、それ以外もオールマイティーにちょこちょこ聴いている。ちなみにここ数年でハマった楽曲はというと、THE RAMPAGE from EXILE TRIBEの90年代初頭風ダンスナンバー“New Jack Swing”、Da-iCEのバラード“雲を抜けた青空”、そしてMONSTA Xのヒップポップソング“SPOTLIGHT”など。

この通りジャンルも音楽性もバラバラ。要はキラキラしているボーイズグループならとりあえず何でも好き、という節操なしなのである。

しかしながら、どうして特定のグループをじっくり追わないのかというと、途中から胸が苦しくなるからだ。あまりハマりすぎるとやがて彼らを恋愛対象として見てしまい、いつしか叶わぬ思いに胸を焦がすはめになる。僕のような恋愛運と無縁のゲイにとって、そういった色恋にまつわる切なさは現実世界だけで充分なので、せめてエンターテイメントに触れる際は面倒なことを抜きにして楽しみたい。

だから、ボーイズグループは好きになりすぎない程度に広く浅く聴く、というのが僕の鉄則だ。

BTSの“Permission to Dance”に感じたジンクス

現在ワールドワイドに大活躍しているBTSに関しても、新曲が出たら一応いつもなんとなく聴くようにはしている。が、例のごとくしっかりとPVをチェックしているわけでもライブパフォーマンスを細かく観ているわけでもないので、本当に表層的な面でしか彼らのことを知らない。その上で、先日出た新曲“Permission to Dance”を聴いた時に、ボーイズグループファンとしていろいろと感じたことがあるのでここに記しておこうと思う。

まずこの曲を聴いた際、世界の頂点に立った歴代ボーイズグループに共通する、ある点に気づいた。それは「英語圏以外の人間でも歌えるシンプルな詞の代表曲」を必ず出す、ということ。古くはThe Jackson 5、そしてBackstreet BoysからOne Directionに至るまで、この方程式は脈々と引き継がれている。

「英語圏以外の人間でも歌えるシンプルな詞」とは、一体どういうことか。“Permission to Dance”でいうと、二番のサビ後に歌われる「ダナナナナナナ」という歌詞がそれにあたる。つまり英語が分からない人でもパッと口ずさんだり、ライブでレスポンスできるような単語で構成されたフレーズを指す。

なんだそんなことかと思われるかもしれないが、アメリカやヨーロッパ、アジアを中心に世界的名声を得て時代の頂点へと登りつめたボーイズグループは、こうしたシンプルなフレーズの歌を必ずと言っていいほど出しているし、大抵の場合それがグループの代表曲となっている。

BTS

BTS

The Jackson 5の場合

まず60年代後半から70年代にかけて全盛を極め、その後の欧米におけるボーイズグループの基盤を作ったとも言えるThe Jackson 5(現The Jacksons)から見てみたい。

言わずと知れた、少年時代のマイケル・ジャクソンが所属していた伝説のグループである。元NSYNCのジャスティン・ティンバーレイクや、アッシャー、クリス・ブラウン、ジャスティン・ビーバー、そしてBTSのジミンなど、マイケルからインスピレーションを受けたことを明かしている男性歌手は世代や人種、ソロ・グループを問わず、数えきれないほどいる。

The Jackson 5を現在のボーイズグループの始祖として挙げる他の理由については後述するが、ひとまずこのグループの代表曲として真っ先に思いつくのが、1970年に発表された“ABC”だ。タイトルの通り、サビで「エービーシー」「ワントゥースリー」と歌われるこの曲は、正に英語圏以外の人間でも歌える曲の代名詞と言えるだろう。

The Jackson 5

The Jackson 5

New Editionの場合

そしてThe Jackson 5の登場後、70年代後半に結成され80年代前半にデビューしたのがNew Edition。彼らはこの記事で紹介する他のグループに比べるとヒットの規模は小さいが、現在の欧米ボーイズグループのビジネスモデルに最も直接的な影響を及ぼしたグループなので、ここで取り上げたい。

ちなみに、後にソロ歌手として成功を収めるボビー・ブラウンが所属していたのがこのグループである。 もしボビー・ブラウンという名前を知らなくとも、ホイットニー・ヒューストンの元夫、またはブリトニー・スピアーズがカバーしていた“My Prerogative”のオリジナルを歌っていた歌手、もしくはJapanese Soul Brothersという名前をHIROに与え、後にEXILEや三代目J Soul Brothersを生むきっかけ作りに貢献した人物と言えばピンとくる人も多いのではないだろうか。

まず、1983年に発表された彼らのデビュー曲“Candy Girl”を聴くと、The Jackson 5を意識して結成されたグループであることが分かる。そもそも曲自体が“ABC”を下敷きにしており、ボーカルも変声期前の少年をフィーチャーしているため、同じく変声期前のマイケル・ジャクソンがリードボーカルを務めていたThe Jackson 5を連想させる。さらにこのグループの代表曲であり、グループ最高の全米4位を叩き出した"Cool It Now"は、「クーリーナーウ」というサビの歌詞が非常にキャッチーで歌いやすい。

そしてNew Editionがアメリカ国内で成功を収めたことで、彼らのマネージャーだったモーリス・スターはこう考えた。『黒人5人組であるNew Editionの白人バージョンを作ったら、さらにヒットするのではないか』と。

New Edition

New Edition

New Kids on the Blockの場合

そうした意図の下でモーリス・スターの手により結成され、1986年にデビューしたのがNew Kids on the Blockである。このグループが80年代後半~90年代初頭にかけて爆発的なヒットを記録したことで、5人前後の白人青年たちが歌って踊るポップグループというビジネスモデルが確立され、現在に至る。

なので、少なくとも現在の欧米ボーイズグループの歴史を語る上で、The Jackson 5~New Edition~New Kids on the Blockの流れは決して欠かすことができない。いずれも初期に変声期前の少年がリードボーカルを務めていたという共通点もあり、時代を超えて影響を受け継いでいったことが見て取れる。

だからこそ、New Editionが形作ったボーイズグループの形態(The Jackson 5は楽器を演奏するメンバーもいたが、その音楽性を引き継ぎつつ5人のメンバー全員が歌とダンスを担当する形になったのがNew Edition)を白人がメインストリームに押し上げたことへの反発も、ブラックコミュニティ内には少なからずあったようだ。

New Kids on the Block

New Kids on the Block

New Kids on the Blockは数々の全米ナンバーワンヒット曲を持つが、その中でも1989年の“Hangin' Tough”や1990年の“Step by Step”は非常にサビの歌詞がキャッチャーである。

“Step by Step”は「ステップバイッステップ」というタイトルさえ分かれば、次は「ウーベイビー」というこれまた口ずさみやすい歌詞でサビが構成されているので、英語が分からなくても一緒に歌いやすい。そして、“Hangin' Tough”はさらに口ずさみやすくなっている。なんといっても、「オーオーオーオーオー」という掛け声がサビなのだから。

英語が分からないファンでも歌いやすいこうした歌詞は、英語圏以外のファンをターゲットにして作られたというよりも、英語圏であっても若年層のファンが歌えることを念頭に置いて作られたものなのではないかと思っている。それが結果的に、英語圏以外のファンにとっても共通言語として響いたのではないだろうか。

Backstreet BoysとNSYNCの場合

やがてNew Kids on the Blockは90年代中盤に入ると活動が停滞していくが、彼らの成功に触発され、ボーイズグループで一山当てようと企む者が現れる。それは後に大規模な詐欺事件によって実刑を受け、獄中で亡くなる運命を辿ったルー・パールマンという男だ。彼がNew Kids on the Blockを手本にして結成しデビューさせたのが、90年代後半から00年代前半にかけて世界の頂点へと駆け上がったBackstreet BoysとNSYNCである。

こうした経緯もあってか、New Kids on the Blockのメンバーであるジョー・マッキンタイアは、Backstreet Boys全盛期の2001年頃に、『自分たちがいなければBackstreet Boysは存在しない』と発言。逆にBackstreet Boysの方は、『New Kids on the Blockはメインボーカル以外ほとんど歌っていない』『彼らのせいでボーイズグループへの風当たりが強くなった』などと批判しており、あまり関係は良好ではなかったようだ。しかし、2010年以降はジョイントライブをしたり、コラボアルバムを出したりして、関係はかなり良くなっている模様。

Backstreet Boys

Backstreet Boys

それはさておき、Backstreet BoysとNSYNCの大出世作かつ代表曲といえば、前者は“Everybody”、後者は“Bye Bye Bye”だろう。どちらもタイトル通りのシンプルな英単語でサビが成り立っているので、非常に口ずさみやすい(「エブリバディ」と「バイバイ」なら英語圏の人間じゃなくても結構使うだろう)。

ちなみに、ルー・パールマンはBackstreet BoysとNSYNCの両方にそれぞれの良くない話を吹き込み、そうして不仲にすることで意図的にライバル意識を駆り立てていたらしい。そのせいでこちらの両グループも決して関係は良好ではなかったようだが、今年に入ってメンバー同士がコラボ企画を発表し、往年のファンを大喜びさせている。

NSYNC

NSYNC

One Directionの場合

そして、Backstreet BoysとNSYNCの人気絶頂期からおよそ10年後の2011年にデビューし、瞬く間に次の時代の顔となったのがOne Directionだ。初の全米トップ3入りを果たした代表曲“Live While We're Young”は、「レッツゴークレイジークレイジークレイジー」というサビが印象的で、これなら英語が分からない人でもライブで一緒に歌えるなと思わせる歌詞になっている。

そんな彼らも昨年で結成10周年、今年でデビュー10周年を迎えた。すでに活動していた期間よりも休止している期間の方が長くなっており、いつグループとして復活するのか常にファンをやきもきさせている。

One Direction

One Direction

10年に一度必ず現れるアイコニックなボーイズグループ

60~70年代のThe Jackson 5、80年代のNew Edition、80~90年代のNew Kids on the Block、90~00年代のBackstreet BoysとNSYNC、10年代のOne Direction、そして20年代現在のBTS。約10年おきに必ず現れ、歴史を作ってきたアイコニックなボーイズグループたち。

その歴史の中で引き継がれ、ここぞという時に出されてはいくつものグループを別次元の高みへと上げてきた「英語圏以外の人間でも歌えるシンプルな詞の代表曲」は、正に時代のてっぺんに立った証なのだと思う。

だからこそBTSの“Permission to Dance”を聴いた時、あぁ彼らは名実ともに時代の顔になったのだなと、つくづく感じた。さらに、ボーイズグループのビジネスモデルを確立させた80年代以降の流れを俯瞰で見ても、現在BTSが頂点に立つのはある意味で運命だったのではないかとすら思える。

まず“Be My Girl”、“Stop It Girl”、“Please Don't Go Girl”、“Cover Girl”、“My Favorite Girl”といった具合に、シングル曲のタイトルを見ても明らかに女性ファンが聴くことを意識し、セックスシンボル的な立ち位置にいたNew Kids on the Block。

次に、好きな人とのすれ違いや埋められない距離と向き合う"I Want It That Way"、孤独の意味を教えてくれと歌う"Show Me the Meaning of Being Lonely"、愛する人に助けを求める"Shape of My Heart"、浮気して女性を傷つけたことを悔やむ"The Call"など、男性の弱さをさらけ出す曲をいくつも出してはヒットさせたBackstreet Boys。

さらに、米英を制したボーイズグループとしては恐らく初めてアジア人のメンバーを含み(グループ脱退後にロンドンで開催されたThe Asian Awardsで賞を獲っているゼイン・マリク)、またメンバーの何気ない発言が同性愛嫌悪かどうか論争を呼ぶなどして、図らずとも「ボーイズグループファンは異性愛者の女性だけとは限らない」という事実に光を当てたOne Direction。

このようにボーイズグループの定義がゆるやかに変わってきた流れの延長線上で、前時代的な男性らしさに併合せず、聴く者の性別も選ばない音楽性を持ったアジア人グループBTSが現れた。もはや頂点に立つべくして立ったと納得するしかない。

BTSに関しては他グループ以上に表層部分しか知らないが、彼らが現在ボーイズグループ史の先頭に立っていることにはある種の必然すら感じるのだ。“Permission to Dance”に対しては、『子供っぽい』『英語の曲ばかり』『音楽性が以前と変わってしまった』というファンの意見もTwitterで見た。実際そうした一面はあるのかもしれないが、やはりこの曲は時代や国や言語を超えて名を残すグループとして、絶対通るべき通過点なのだと思う。今まで時代を彩ってきた数々のグループがそうだったように。

憧れの対象であり、変わりゆく男性像の象徴としてのボーイズグループ

常に男性像を変化させ、ジェンダー観を刷新していくボーイズグループに、僕は魅力させられ続けている。今後さらにBTSからバトンを受け取るグループが現れたとしたら、そこでどんな新しい男性像が見れるのか気になるし、僕自身が男性として囚われていたしがらみをまた一つ脱いでいくきっかけになるかもしれない。そう考えると、まだ見ぬ未来のボーイズグループへと思いを馳せずにはいられないのである。

最後に、とあるボーイズグループのメンバーについての話をして、この長い独り言を締めたい。

僕の父はかつてメディアに携わる仕事をしていた。そういったこともあり、幼い頃に芸能関係のイベントへと連れていかれたことがある。あれはまだ僕が小学校に入る前、恐らく1989~1990年頃だと思うのだが、父に連れていかれたイベントに、ある優しいお兄さんがいた。

僕よりずっと年上の彼は、大人に囲まれて退屈していたであろう僕に声をかけ、一緒に遊んでくれた。誰かに頼まれて遊んでくれたというよりも積極的に僕と絡んでくれていて、子ども心にも優しいお兄さんだと感じたのを覚えている。

もうさすがにどんな話をしたかまでは忘れてしまった。ただ、別れ際に彼から冗談っぽくかけられた言葉だけは、今もはっきりと思い出せる。

「お兄ちゃんみたいになったらだめだよ」

そのおどけた表情や、悪ぶっていても優しさが全身から溢れ出している雰囲気は、時がたてばたつほど眩しさを増して心の中に焼きついていく。ちなみに、そのお兄さんはしばらくしてからボーイズグループの一員としてブレークし、やがて日本中の誰もが知る存在となっていった。

それは中居正広、その人だった。僕が会った時は、彼がまだSMAPとしてデビューする前だったと思う。でも自分の記憶の中の彼と、今テレビに映っている彼には何の違いもなく、今も昔も本当にキラキラした人だなぁという思いでいっぱいだ。

手に届きそうで届かないお兄さん。ちょっと届いたと思っても、気づくと向こうはすぐにまた一歩先を歩いている。決してお兄さんみたいにはなれない。だからこそ追いかけてしまう。僕が切なさと隣り合わせにいてもボーイズグループのファンでい続けたいと願う理由の一つは、ここにあるのかもしれない。

彼らのくれる永遠のトキメキが、今日も僕の胸をとらえて離さない。

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